奇妙飯『もはやルーいらないカレー 〜京風カレー おこしやす〜』
昨今、女子高生の間で流行っていると言われる“奇妙飯”。
流行りすぎて逆に流行っていないという説もある。
少なくとも自分は聞いたことがない。
奇妙飯とは、その美味さからではなく。
「何それ」という興味心から食べてみたくなる飯のこと。
初見だと怪訝な顔付きになるのもポイントである。
今宵はそんな奇妙飯を紹介していこうと思う。
~奇妙飯~
『もはやルーいらないカレー』
カレーライスといえば、ルーとご飯。
両者は互いに切っても切り離せないもの。
ルーが要らないカレーだって?
どうせ眉唾な噂だろう。
決して信じることはなかった。
しかし、その奇妙さに心惹かれたことは否定できない。
私は暇な時間を見つけ、噂の出どころ“京風カレー おこしやす”を訪れた。
場所は淡路町。看板には京風カレーと書かれている。
京風とはこれいかに。
謎は深まるばかりだが、好奇心に背を押され暖簾をくぐる。
メニューはそこまで尖っていないようだ。
野菜カレーをベースにして、鳥ソボロ、豚ソテー、牛煮込みと種類がある。
とりあえず、ここは奮発して牛煮込みカレーを注文してみた。
運ばれてきたの奇妙感ゼロの美味そうなカレー。
これではただの普通飯ではないか。
ガセネタにいっぱい食わされたのかと、私は心の中で落胆した。
仕方なく、ノン奇妙カレーで空腹を満たそうとしたその時。
鼻から脳にかけて電撃が走った。
何だろう。
素朴でありながら奥深く、それでいてそこはかとない優しさを感じさせるこの匂いは。
目の前のカレーから、というより、ご飯からだった。
炊き込みご飯か…いや、ただの炊き込みご飯のそれではない。
真相を確かめるには舌の上に乗せるしかなさそうだ。
ルーは混ぜずに、まずはご飯だけを食してみた。
こ、これは…!!
口中に広がるのは魚介の旨味。おそらくは貝類。
さらに、その他にも何らかの食材が絶妙な塩梅で使用されている。
美味い…美味すぎる。
決してインパクトのある味ではない。
ただ、だからこそ飽きが来ず、スプーンが止まらないのだ。
ふと卓上に目を向けるとそこには醤油。
おい嘘だろ…。
ご飯は確実に和テイストに仕上げられている。
即ち、醤油が合わないはずがない。
想像しただけで幸せ中枢が壊れてしまいそうだ。
しかし、どういう訳かカレー用と書かれている。
今、私が来ているのはめちゃくちゃ美味い白飯屋のはずだ。
カレーというのは何かの間違いだろう。
早速、この悪魔の調味料をご飯に数滴垂らしてみと…。
再び、稲妻が走る。
完璧と思えていた味に更なる進化が起きた。
まるでどこまで広がる悠久の大地を、一匹の白馬が優雅に駆け抜けていくような。
醤油は、足りなかったピースではない。
完成されたパズルをまとめるために存在する、唯一無二の枠組みだったのだ。
食べれば食べるほど、次を食べたくなる。
どんなに満腹状態でもこれならがっつけると思えてしまう。
あぁ、いつまでもこの時間が続けばいいのに。
そして、最後に恐ろしい事実に気づくのである。
「これ、ルー要らないんじゃね」…と。
~奇妙飯 終~
<あとがき>
後にご飯を調べてみました。
昆布と帆立の出し汁で炊き上げ、鰯粉と鯖粉を混ぜ込んでいるとのこと。
あと念のために言っておくと。
普通にルーとご飯を一緒に食べても美味しいです。
ただ…
ご飯だけで食べるのが美味すぎるんです。
そう言わせてしまうほどの罪深き奇妙飯。
“京風カレー おこしやす”にて食べられますので。
是非ともご賞味あれ。