掴み取れ一番星、聞くんだA賞の声【前編】
とある書店のレジでの話。
この世の中を生き抜くために最も必要な“力”とは何だろうか。
知力…体力…精神力…権力…財力…。
これらはたしかに強大な力ではあります。
しかし“あの力”の前では全てが無力と化します。
では、その答えをお教えしましょう。
それは―――。
「休憩いってきまーす」
「いってらしゃい」
後輩が休憩に入りレジに一人残されたおれ。
その日は何も問題が起きない平穏な一日だった。
あの出来事が起こるまでは…。
暇すぎて自分の顔面を思いっきり鷲掴みにし続ければ小顔になれるんじゃないかという実験を試みていたところに一組の親子が来店した。
幼稚園児ぐらいであろうお子さんを連れたお父さんだった。
小さい子どもには笑顔で手を振ってあげるという接客を心掛けているのですが
それを華麗にスルーされたときの「あれ、なんか手首に違和感あるなー」的な空気を出して誤魔化すのには手慣れたものである。
その親子は一通り店内を見回った後にレジへと訪れた。
手には何も持っていない。
手ぶらだった。
一応補足しておくとお父さんが手をブラジャー代わりにしていたわけではない。
この場合は二つのパターンが予想される。
一つは商品の場所が分からないという問い合わせ。
そしてもう一つは“一番くじ”である。
お父さん「すいません、このくじを三回引きたいんですけど」
おれ「かしこまりました、少々お待ち下さい」
淡々とお会計を済ましていく。
そのときはまだ気付いていなかった。
さっきまでの平穏が、音を立てて崩れ去っていることに。
(中編へ続く)