twelve months story
~前編~
12月「この中から要らない月を決めなければならない」
その一言で、場の空気は凍りついた。
1月「な…いきなりすぎませんか!何の説明もなしに!」
12月「上層部が決めたことだ。おれたちがその理由を知る権利はない」
2月「今までみんなで頑張ってきたのに…」
3月「そんなの勝手すぎますよ…」
12月「おれだってみんなと同じ気持ちだ。だけどな、それが組織ってやつなんだ」
4月「で、誰が抜けるってわけ?」
12月「これから何時間でも納得のいくまで話し合う。それでも決まらない場合は」
5月「多数決か」
12月「そうゆうことだ」
…。
…。
…。
誰も発言しようとしない。
そんな重苦しい空気の中、口火を切ったのは
6月「これじゃいつまで経っても話が進まねぇよ」
7月「この中に要らない月なんていないからよ」
6月「それならこうしようぜ。この中で一番の怠け者が抜けるべきだとは思わないか?」
8月「みなそれぞれ役割をまっとうしている。怠け者などいない」
6月「本当にそうか?一人いるだろ、“明らかに日数の少ない月”が」
2月「え…」
10月「待てよ!2月の日数が少ないのは決められていたことだ!こいつは何も悪くない!」
6月「決められていようが事実は事実だ。それにお前が必死になって2月を庇う理由も知ってるんだぜ?」
10月「い、今そのことは関係ないだろ!」
6月「いいやあるね。組織内での恋愛は禁止されていたはず。つまりお前らはルールを守れない無法者ってわけだ」
9月「あらあら」
2月「違うの!10月君には私の方から一方的に!」
11月「もういいでしょう!!」
話の流れを断ち切るには十分な声量だった。
11月「さきほどからの話し合いは目的を見失っているように思えます」
12月「11月の言うとおりだ。お前達は少し落ちついた方がいい」
6月「ちっ…」
その後も話し合いは続いたがとても意義のある内容とは言い難かった。
そして、予定通り、想像通り、思惑通り
多数決を取るための投票が行われた。
~中編~
投票は終わった。
しかしその結果が公開されることはなかった。
12月だけが結果を確かめ、そして。
12月「明日、おれがこの結果を上層部に伝える。今日はこれで解散だ」
みんな何も言わずに席を立ち部屋から出ていった。
ただ一人、6月を除いて。
6月「12月さん、今までお世話になりました」
そう言って6月は頭を下げた。
スゥー…。
タバコを吹かせた後、12月は応えた。
12月「あれ以外にも方法はあったろ、“お前自身に票を集めさせるには”」
6月「いやー、今後のためにもっすよ。
おれが憎まれ役にでもならないと雰囲気悪くなっちゃうでしょ。
あいつら、みんないい奴っすから」
12月「お前は不器用な奴だけどな」
6月「へへ、ありがとうございます」
12月「…もう、こんな時間か」
6月「いつの間にかっすね」
12月「そういえば6月」
6月「はい?」
12月「お世話になりました、はまだ早いぞ」
6月「え…?」
12月「投票結果をお前にだけ教えてやる」
6月「そんなのおれが断トツに決まってるんじゃ…」
12月「いいから聞けよ。1月…一票」
6「な…どうゆう…」
12月「2月一票、3月一票、4月一票、5月一票、6月一票、、7月一票、8月一票、9月一票、10月一票、11月一票、12月一票」
6月「なんで…」
12月「以上だ。結果は全員同率一位とでも言ったところか、はっは」
6月「そんなの嘘に決まってますよ!」
12月「本当だよ、なんならその目で確めてみるか?」
6月「ほんとに…」
12月「みんな一票ずつ自分に投票したんだ。演技が臭すぎるんだよ、大根役者め」
6月は素早く12月に背中を向けた。
おそらく、今の自分の顔を見られたくなかったのだろう。
歪みに歪みきった、泣き顔を。
≪Happy End≫
では。
終わりません。
その後に6月は知ることになります。
一年が11月までになったことを。
一年から12月が抜けたことを。
~決意編~
12月『これがみんなで投票を行った結果です』
上層部『ほう、それで君は何を言いたいのかな?』
12月『おれたちの中に要らない月なんていません』
上層部『わたしは言ったはずだ、何があろうと抜けるべき月を一人を選べと』
12月『ですが!どうしても一年が11月になることがプラスになるとは思えません!』
上層部『君の意見など求めていない』
12月『では…ではせめて理由を聞かせて下さい!』
上層部『前にも言っただろう。君らにそれを知り権利はな』
下っ端『失礼します!お孫さんがまだ一年は11月までにならないのかと暴れ出しまして我々には手が負えません!…あっ』
12月『そんな理由なのか…?そんな理由で…そんな理由で…!!』
上層部『いいから早く抜けるべきを月を』
12月は話を遮り上層部を殴り飛ばした。
12月『おれたちがどんな思いで何年、何十年、何百年、一緒にやってきたと思ってるんだ!!』
…。
12月「そんなわけであいつの顔面をぶっ飛ばした責任を取っておれが抜けることになったってわけだ」
6月「そんなわけでって…納得できないっすよ!!」
12月「気付いたら手が出てたんだよ」
6月「そこじゃないっす!それで何で12月さんが抜けないといけないんすか!」
12月「結局は誰かが抜けることになってたんだ、それならこれが一番手っ取り早いだろ」
6月「12月さんが抜けたらおれたち…どうすればいいか分からないっすよ!!」
12月「お前がおれの後を引き継けばいい」
6月「え…?」
12月「これからはお前がリーダーとしてみんなを引っ張っていくんだ」
6月「そんなのできるわけないっすよ!!おれにはリーダーなんて向いてないっす!!」
12月「できるさ、おれはあの話し合いで確信したんだ。
お前は常にチームのことを考えいざというときチームのためになる決断を下せる。
おれなんかよりよっぽど向いてるよ」
6月「…」
12月「まぁ、決めるのはお前自身だけどな」
6月「…少し、考えさせて下さい」
12月「分かった」
その日の夜、6月は決意する。
12月の後を継ぐことを。
しかしそれは翌日の“一日限り”であった。
翌日に何が起きたのか。
翌日に6月は何をしたのか。
全ては決戦編にて明らかになる。
~決戦編~
コンッコンッ。
扉をノックする音が部屋に響き渡った。
上層部「入りたまえ」
?「失礼します」
上層部「君か…リーダー就任おめでとう、6月君」
6月「ありがとうございます」
上層部「今日ここへ来たのはその挨拶か?」
6月「違います」
上層部「他に何の用がある?」
6月「今日ここへ来たのは…あなたと“交渉”するためです」
上層部「交渉だと…?」
6月「こちらからの要求はただ一つ、12月さんの復帰です」
上層部「はっはっは!笑わせるな、そんなこと無理に決まっているだろう。
そもそも、交渉と言うからにはわたしに何か得があるのか?」
6月「要求を呑んで頂けないのでしたら、おれは月としての役割を放棄します」
上層部「なるほどな、ストライキといったところか。
しかし君にそんなことは絶対にできない。
君は、いや君たちはそれが何を意味するかを分かっていない」
6月「…」
上層部「君たちの役割とは“時間の流れ”そのものだ。
それを放棄なんてしてみろ、たちどころに世界は崩壊するだろう。
たかが12月一人を復帰させるために、世界を犠牲するというのか?
できるはずがない、君如きではな」
6月「気付いてましたよ、そんなこと。
おれがいつ時間の流れまで放棄すると言いましたか?」
上層部「…」
6月「おれが放棄するのは12月さんから引き継いだイベント、“クリスマス”です」
上層部「…生憎だがわたしにはもうクリスマスなど必要ない」
上層部の微かな動揺を6月は見逃さなかった。
6月「あなたには必要ないでしょう。
ですがあなたのお孫さんは別なんじゃないですか?」
上層部「…」
6月「お孫さんが思春期となればクリスマスはなくてはならないイベントとなるはずです。
そのときもし、あなたのせいで、クリスマスというイベントが存在しなかったら。
クリスマスのノウハウを知っているのはおれと12月さんだけです。
つまりおれをクビにして他のやつを雇っても二度とクリスマスはできません」
上層部「…」
6月「それらを踏まえた上で、交渉の余地はありますでしょうか」
上層部「はは…ははははははは!!」
6月「…?」
上層部「惜しい、じつに惜しい。
だが、君が示した条件には一つだけ致命的な間違いがある」
6月「どうゆう…ことですか?」
上層部「クリスマスのノウハウを知っているのは君と12月だけ。
果たしてほんとうにそうかな?」
6月「まさか…」
上層部「わたしがここに来て初めて任された担当は“12月”。
そして今の12月にクリスマスのノウハウを教えたのはこのわたしだ」
6月「そんな…」
上層部「君の代わりはいくらでも作れる。
辞めたければいつでも辞めればいい、まぁ続けるしかないだろうがな。
この話はこれで終わりだ」
そのときだった。
コンッコンッ。
扉をノックする音が部屋に響き渡った。
決着編に続く。
~決着編~
上層部「今は取り込み中だ、後にしてくれ」
?「そうゆうわけにはいきませんね。
なにせ今あなた方がしているお話に用があるのですから」
上層部「な…誰だ?」
6月「お前…」
?「6月君、選手交代といきましょう」
その人物は6月に笑みを見せた後、上層部の方へと振り返った。
?「お初にお目にかかります。私は“11月”という者です」
上層部「なぜ今11月がここに来る必要がある?」
11月「いえね、あなたへの伝言を九つほど受け賜りましたもので」
上層部「伝言だと?」
11月「では面倒なので一つにまとめて申し上げますね」
ゆっくり深呼吸をした後、はっきりとした声で11月は言い放った。
11月「『12月さんが戻って来ないなら、おれたち全員これからの祭日、記念日、イベント、何にもやらないからな!!』とのことです」
6月「お前ら…」
11月「すいません、誰にも責任を負わせないために一人で来たのでしょうがどうやら我々はそんな空気の読めるチームではなかったようです」
6月「はは…もうどうなっても知らねぇからな」
11月「臨むところです」
上層部「…」
11月「それでは、返答をお伺いしましょう。
12月さんは復帰させて頂けるのでしょうか?
それとも、一年を何も起こらない退屈な日々にしてしまうのでしょうか?
あぁ、クリスマスはできるんでしたね。“あなた一人でも”」
上層部「…勝手にしろ」
11月「ありがとうございます。
では行きましょうか、6月君。
いや、リーダーに君付けではまずいですね、六月さん」
6月「君でいいって。
リーダーは帰ってくるんだからさ」
こうして一年は一日だけ11月までとなり
またすぐにいつも通りの12月までに戻った。
―――その騒動の影には―――
―12人の功労者がいたことを―
――――誰も知らない――――