地元治安悪いトーク対決
地元治安悪いトーク。
それは自分の地元の治安がいかに悪いかを競い合うものである。
この分野においては絶対の自信を持っていた。
あの国の出身者が現れるまでは。
その日、飲み会で集まった同期がみんな横浜出身だったことが分かったおかげで地元トークに花が咲き、場は盛り上がっていた。
「横浜って治安悪いよねー」
この一言から流れは一気に地元治安悪いトークへと傾いた。
地元治安悪いトークにおいて重要なのはネタを出す順番。
まずはジャブネタ。
「ブックオフで黒い木刀持ったおっさん見たことあるよ」
鉄板ネタではあるがあくまでもジャブ。
ウケようがウケまいがそれは問題ではない。
場の空気が和めばそれでいい。
相手の興味が引けたところで一気に本ネタを投入する。
「チャリもここ数年で四台パクられてる」
ジャブと順序が逆ではないかと思うかもしれない。
しかしイメージし易い話ほどインパクトは強くなるものなのでこれがベスト。
そして駄目押しのオチネタ。
「切り捨て御免の生麦事件もあったし」
まさかここで歴史上の出来事を持ってくるという超面白いやつである。
完璧な三段構成だった。
おれの地元治安悪いトークにみな恐れおののきこの勝負決まったと思われた。
しかしその時だった。
「なになに何の話?」
ここへきてnewチャレンジャーの登場である。
「地元の治安が悪いって話しるんだけどさ、どこ出身?」
ふっ、この状態から何ができるというのか。
「博多だよ」
え?
たしか博多と言えば通称…。
“修羅の国”
前にロケットランチャーの不法投棄が見つかったみたいなニュースを見たことがある。
そんなチート級の話を出されたら太刀打ちできるはずがない。
だが相手の力量は未知数。
案外、学生時代によくカツアゲされたなー、くらいの話ならまだ勝ち目はある。
さぁ、ジャブネタは何でくる!!
「実家の母さんから聞いたんだけど、最近お向いさん家に銃弾が撃ち込まれたらしい」
えぇぇぇぇぇ!?
何それぇぇぇぇ!?
そんな、近所のスーパーが特売セールでさ。
みたいなテンションで言われても。
もはや笑っていいのかも分からない領域。
ジャブネタでここまで差をつけられてしまうとは。
本ネタでは一体何を話すつもりなんだ。
「チャリも週に三台パクられたことあってさ」
かぶったぁぁぁぁぁ!!
かぶった上に上をいかれたぁぁぁぁぁ!!
「サドルだけ盗まれて代わりにブロッコリーが刺されてこともあったかな」
どうゆうことそれ!!
もはや場の空気は完全に制されてしまった。
今回はもう完敗だ。
大人しく聞き手に回ってオチネタを楽しもう。
「博多の男は手榴弾の解体くらいできないとモテないって言われてるよ」
ふぅ。
今度会ったら手榴弾の解体の仕方教えてもらおっと。